2016年7月20日水曜日

糖尿病治療の妙

糖尿病・生活習慣病のおはなし

シリーズ⑥ 糖尿病治療の妙


 昨年10月に、糖尿病標準治療に新薬であるSGLT2阻害薬のエンパグリフロジンを上乗せすることで、2型糖尿病患者の心血管イベントのリスクが有意に低下したとするEMPA-REGOUTCOME試験の結果が第51回欧州糖尿病学会で報告されました。全死亡リスクを32%、心血管死リスクを38%低下させることなども示され大変話題になりました。では私たち専門医は、明日からこの薬ばかりを使うかというと当然そうではありません。論文におけるサブグループで解析をしたところ、年齢では高齢者(65歳以上)で有益性が高く、BMI30未満の群で有益性が高かったことがわかっています。つまり従来この薬の適応であったはずの若年肥満層にはあまり効果がなかったことも考慮しないといけません。この試験の患者層は血管イベントの既往のある2型糖尿病という、日本の日常診療では稀な患者様である点も注意が必要です。糖尿病治療は一筋縄ではいきません。複雑なパズルをひも解いて選択薬を決定していく点に糖尿病臨床の妙があります。

2016年7月6日水曜日

糖尿病治療の目的を考えてみる

糖尿病・生活習慣病のおはなし

シリーズ⑤ 糖尿病治療の目的を考えてみる


 今月の米国心臓病協会学術集会(AHA2015)にて、世界の高血圧診療ガイドラインを一変させる臨床研究の成果(SPRINT試験)が発表されました。収縮期血圧120㎜Hg未満を目指した厳格降圧群が、140㎜Hgを目指した標準降圧群に比べて、心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)を25%もリスクを減らしたというものです。75歳以上でも同様の傾向を認め、日本でも週刊誌等で大きな反響を呼びました。当院でも患者さんから「もっと120㎜Hg未満まで血圧を下げた方がいいですか」とよく相談を受けます。しかし答えは「今の段階では必要ありません」です。実はこの臨床試験、最初から糖尿病患者が除外され検討されています。従って、この結果のみで糖尿病患者さんの治療選択は出来ないのです。糖尿病治療学が究極のテーラード治療と言われる所以です。糖尿病の臨床では、多くの臨床試験やガイドラインと通して最良の治療選択を患者さんに提供することが要求されます。統計学的に妥当性のある選択肢を外来で即座に提供することはなかなか骨が折れる作業です。今日も秋の夜長に論文と格闘しないといけない予感がしてきました。次回のテーマも糖尿病治療の目的についてのお話しです。